仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)410号 判決
控訴人等及び被控訴人等間の青森地方裁判所八戸支部昭和二十八年(ヨ)第四七号不動産仮処分命令申請事件につき同裁判所が昭和二十八年七月一日した仮処分決定を取消す。
被控訴人等の本件仮処分申請を却下する。
申請及び控訴費用はすべて被控訴人等の負担とする。
この判決は第二項に限り仮にこれを執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は主文第一乃至第四項同旨の判決を求め、被控訴人伊保内三郎外百十八名代理人は控訴棄却の判決を求めた。被控訴人法官新八郎は当審における口頭弁論期日に出頭しない。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴人伊保内三郎外百十八名代理人において、
一、被控訴人等は、本件土地に対する占有権詳言すれば右占有権に基く妨害排除請求権保全のため本件仮処分を求めるものである。本件仮処分において保全さるべき権利は、被控訴人等の右土地に対する占有権それ自体であつて、被控訴人等が国の許可により使用占有していたというのは被控訴人等が本件土地につき現在まで占有を継続している事実を明確にするための経緯事情を述べたに過ぎない。被控訴人等が原審において「昭和二十七年春以来本件土地の使用を遠慮した」と述べたのは、当時控訴人等の強引な棒杭等の設置によつて一時その使用を控訴人の一部の者に許したに過ぎず烏賊取獲時以後は被控訴人等が従来どおり使用占有していたのである。なお本件土地は海浜地であるため、被控訴人等の占有形態も烏賊取獲時においては烏賊乾燥用の施設を施して使用占有し、右以外の時期においては漁船置場とか漁網等の乾場に使用占有していたものである。
二、本件土地につき国から控訴人等に対する青森地方裁判所八戸支部昭和二十八年(ヨ)第三二号仮処分命令に基く仮処分の執行は、昭和二十八年七月七日その一部が解放され、同年十二月五日その残り全部が解放されたものである。
と述べ、控訴代理人において、
一、被控訴人等が本件仮処分によつて保全される権利として従来主張してきたところは、本件土地は国の所有に属し右土地は公共用物であつて、被控訴人等は右公共用物に対する使用期待権なる一種の公法上の権利を有するとし、右権利を被保全権利と主張したものと見られるが、当審において被控訴人等は前示一に主張するようにこれを右土地に対する私法上の占有権であると主張し、本件仮処分申請における申請の原因を変更した。しかし民事訴訟法第二百三十二条の規定は仮処分申請の場合にも準用されると解されるから、右のような申請の原因の変更は許されないものである。
二、仮に右の点が理由なしとするも、被控訴人等の前示一の占有権の主張は故意又は重大な過失により時機に遅れて提出されたもので、これがため訴訟の完結を遅延させるものであるから許さるべきものでない。
三、被控訴人等主張の前示一の、本件土地を被控訴人等において占有する事実を否認する。右土地は控訴人等においてこれを使用占有するものである。仮に被控訴人等において右土地を使用占有したとしても、それは控訴人等と対等平等な関係における共同占有であつて控訴人等の使用占有を排除することのできないものである。従つてその使用又は占有上の権利も右趣旨のものに過ぎない。
四、本件土地につき国から控訴人等に対する青森地方裁判所八戸支部昭和二十八年(ヨ)第三二号仮処分命令に基く仮処分の執行が、昭和二十八年七月七日一部解放され、同年十二月五日その残り全部が解放されたことは、これを争わない。
と述べたほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
青森地方裁判所八戸支部昭和二十八年(ヨ)第四七号不動産仮処分命令申請事件につき昭和二十八年七月一日被控訴人等主張のような仮処分決定がされたことは当事者間に争がない。
よつて右仮処分申請の当否を判断するに、
一、控訴人等は、被控訴人等(但し被控訴人法官新八郎を除く)は当審において本件仮処分申請の原因を変更したが、民事訴訟法第二百三十二条の規定は仮処分申請の場合にも準用されるから、右申請の原因を変更することは許されないものである旨主張する。しかし、仮処分申請の原因を変更することについて民事訴訟法第二百三十二条の規定は準用されない。けだし仮処分申請の原因として保全さるべき権利又は権利関係を表示することを要することは同法第七百五十六条第七百四十条の規定するところであるが、右は訓示規定であつてこれを仮処分申請の要件でないと解するのを相当とするからである。従つて仮処分申請の原因はこれを変更することを妨げないから控訴人等の右主張はこれを採用することができない。
二、控訴人等は、被控訴人等の右申請の原因変更による占有権の主張は、故意又は重大な過失により時機に遅れて提出されたもので、これがため訴訟の完結を遅延せしめるものであるから許されないものである旨主張する。しかし、被控訴人等は従来本件仮処分により保全さるべき権利を本件土地の使用に関する権利であるように主張してきたところ、当審においてこれを本件土地の占有権と変更したことは明かであるが、これがため訴訟の完結を遅延せしめるものと認められないから、この点の控訴人等の主張も採用することができない。
三、控訴人等は、本件土地については、さきに国から控訴人等に対し青森地方裁判所八戸支部昭和二十八年(ヨ)第三二号仮処分命令に基く仮処分の執行がされた結果、控訴人等は右土地に立入ることを禁止されたものであるところ、本件仮処分申請は右と同一土地につき更に控訴人等の立入を禁止しようとするものであるから、さきの仮処分と牴触するもので、従つて本件につき昭和二十八年七月一日された仮処分決定は無効である旨主張する。よつて案ずるに、本件土地につきさきに国から控訴人等に対し右のような仮処分決定がされ、これによつて控訴人等の右土地立入が禁止されたことは当事者間に争がない。しかしさきの仮処分と本件仮処分申請とはその申請の当事者を異にするから、たとえ仮処分の目的物たる土地が同一であり仮処分の内容が同一債務者に対する右土地立入を禁止するものであつても、その仮処分による保全の目的が同一でないことはいうまでもない。かように仮処分による保全の目的を異にする以上、たとえ後の仮処分にさきの仮処分と牴触するものがあるとしてもこれを当然に無効のものということはできない。勿論この場合にさきの仮処分の効力は後の仮処分によつて阻害されることはないのであつて、たゞ牴触の範囲において後の仮処分が執行し得ないものとなるに過ぎないのである。又仮処分に対する異議申立は、仮処分申請の当否について再審判するものであつて、単に異議申立の対象たる仮処分決定がされた当時を標準としてその当否を審判するに止るものでなく、異議における最終口頭弁論期日当時を標準としてこれを審判すべきものであるところ、本件においてさきに国から控訴人等に対してされた仮処分は、その後昭和二十八年七月七日その一部の執行が解放され同年十二月五日その残部の執行が解放されたことは控訴人等の争わないところであるから、現在においては控訴人等主張の仮処分の牴触の問題が生ずる余地のないことは明かである。いずれからするも控訴人等の右主張はその理由がない。
四、そこで被控訴人等の主張する本件仮処分によつて保全さるべき権利の存否及び仮処分の必要の有無について審案するに、本件土地が海浜地であることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第四、五号証、被控訴人法官新八郎との関係において成立を推認するに足りその余の被控訴人等の関係において成立に争のない乙第十五号証を綜合すると、本件土地は旧八戸市街地から八戸市大字鮫町に通ずる県道の北方に隣接する八戸市大字白銀町字洲賀端六十四番一号乃至四号地先海辺砂地約六千坪で満潮時には北方浪打際まで数十尺乃至百尺の間隔がありこの部分も略本件土地大の砂地であることが疎明され、当審証人関下松太郎の証言、当審における被控訴人佐々木三郎本人尋問の結果、被控訴人法官新八郎との関係において成立を推認するに足りその余の被控訴人等との関係において成立に争のない乙第十三号証を綜合すると、被控訴人等は漁業又は水産物加工業を営む者であるが、本件土地を漁類、漁網、肥料又は烏賊等の乾場として使用したことがあり、そのうち数名の者は現にこれを使用していること及び荒天時の漁船引揚には本件土地と海との間の前示砂浜を使用すれば足りるが稀には本件土地をもこれに使用することがあることが疎明される。しかし成立に争のない乙第二号証、成立を推認するに足る乙第三、四号証、前掲乙第十三号証、被控訴人法官新八郎との関係において成立を推認するに足りその余の被控訴人等との関係において成立に争のない同第十五乃至第十七号証、原審証人遠瀬三郎、原審及び当審証人磯谷兼人の各証言、当審における控訴人沢井敬次郎本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人等の右土地使用は水産物加工業者である控訴人等の本件土地使用に支障を生ぜしめない範囲程度で控訴人沢井敬次郎等の承諾を得たもの、又は同人等より黙認されたもので、元来本件土地はその南方に接続する土地を控訴人等の一部において賃借使用している関係上その地先として主として控訴人等においてこれを烏賊乾場等に使用し、その烏賊乾燥用に供するため棒杭をたてその他これが附属設備を施しているものであることが疎明される。当審証人関下松太郎の証言、当審における被控訴人佐々木三郎本人尋問の結果及び乙第十三号証の記載中右に反する部分は前示採用の証拠に照し採用し難い。又甲第二乃至第八号証の記載中右に反する部分も右乙第二乃至第四号証、第十五乃至第十七号証、原審証人遠瀬三郎、原審及び当審証人磯谷兼人の各証言、当審における控訴人沢井敬次郎本人尋問の結果と対比し疎明ありとするに足らない。他にこの点を疎明するに足る証拠はない。
以上によると、被控訴人等はその一部の者において前示疎明された範囲程度で本件土地を使用占有するものということができるが、右一部の者が被控訴人等のうちの誰であつても、その土地の使用占有は、控訴人等の土地使用従つて控訴人等において地上に烏賊乾燥用の棒杭をたてその附属設備を施すことにより何等の妨害をも受けるものでないといわなければならない。右の範囲を超えて被控訴人等においてその主張のような本件土地の使用又は占有の権利があること及び被控訴人等においてその権利保全の必要のあることは結局その疎明なきに帰する。しかして本件の場合保証をたてさせて疎明に代えることも相当でないと認める。
右の次第で被控訴人等の本件仮処分申請を許容した仮処分は失当で本件仮処分申請は却下すべきものであるから、右と異る原判決は不当を免れない。本件控訴はその理由がある。よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第九十三条第八十九条第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村木達夫 佐々木次雄 沼尻芳孝)